思考法と出典

「問い直す力」はクリティカル・シンキングの中核にある働きですが、世の中には問い直しを助けてくれる思考法やテクニックが数多くあります。ここでは、そのうち使えそうなものを、実在する出典つきでまとめました。

このページの読み方:各解説は入門的に簡略化しています。正確な定義や全体像は、必ず各出典(一次情報)に当たってください。出典はいずれも著者・書名で検索すれば原典にたどれます。URLは変わりやすく、それ自体が検証の手間になるため、ここでは載せていません。

クリティカル・シンキング全体の整理としては、専門家の合意をまとめた次の文献が出発点になります。

  • Peter A. Facione, Critical Thinking: A Statement of Expert Consensus(通称 The Delphi Report), American Philosophical Association, 1990

A. 問いを立てる・確かめる

ソクラテス式問答法

答えを与えるのではなく、問いを重ねて相手(や自分)に前提や矛盾を気づかせる対話の方法。「なぜそう言える?」「それはどんなときも?」と掘り下げる、問い直しの原型です。

出典:プラトンの対話篇(『メノン』『国家』ほか)。批判的思考教育への応用は R. Paul & L. Elder(Foundation for Critical Thinking)。

なぜを5回(5 Whys)

ある事象に「なぜ?」を重ね、表面の理由の奥にある原因までたどる手法。最初に出てきた“それっぽい理由”で止まらず、根拠の層を一段深く掘るのに効きます。

出典:大野耐一『トヨタ生産方式』ダイヤモンド社, 1978

仮説思考

先に「たぶんこうだ」という仮説を立て、それを検証する形で考えを進める方法。やみくもに情報を集める前に「何を確かめれば判断できるか」を絞れます。

出典:内田和成『仮説思考』東洋経済新報社, 2006/科学の仮説演繹法も同じ発想。

B. 論理・議論を構造化する

トゥールミンの議論モデル

主張を「主張・根拠(データ)・論拠(なぜ根拠が主張を支えるか)」に分けて見る枠組み。前提を問うときの“どこが弱いか”を特定しやすくなります。

出典:Stephen Toulmin, The Uses of Argument, Cambridge University Press, 1958

ピラミッド原則・MECE

結論を頂点に、根拠を漏れなくダブりなく(MECE)積み上げて整理する技術。話の抜けや重複に気づく目が養えます。

出典:Barbara Minto, The Pyramid Principle, 1987(邦訳『考える技術・書く技術』ダイヤモンド社)

演繹・帰納・アブダクション

ルールから個別を導く演繹、事例から一般化する帰納、観察から最良の説明を推測するアブダクション。どの推論を使っているかを意識すると、論理飛躍に気づきやすくなります。

出典:論理学の基本概念。アブダクションは C. S. パース(Charles Sanders Peirce)。

C. 直感・バイアスを疑う

システム1/システム2と認知バイアス

人の思考には、速い直感(システム1)と遅い熟慮(システム2)があり、直感は便利な反面、系統的な偏り(バイアス)を生みます。「いま直感で判断していないか」と立ち止まる根拠になります。

出典:ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』2011(邦訳 早川書房, 2012)/A. Tversky & D. Kahneman, “Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases,” Science, 1974

メタ認知

自分の考え方そのものを一段上から眺め、点検する力。「自分は何を確かめ、何を確かめていないか」を自覚する、問い直しの土台です。

出典:John H. Flavell, “Metacognition and Cognitive Monitoring,” American Psychologist, 1979

D. 反対側から検証する

反証可能性

「どんな事実が観察されたら、その主張は間違いだと分かるか」を問う考え方。反証できない主張は、確からしさを確かめようがない、と見抜けます。

出典:カール・ポパー『科学的発見の論理』1934(英訳 The Logic of Scientific Discovery, 1959/邦訳 恒星社厚生閣)

スティールマン・寛容の原則

相手の主張を、わざと弱くではなく最も強い形に組み立て直してから検討する態度。藁人形(ストローマン)論法の逆で、思い込みで切り捨てるのを防ぎます。

出典:Daniel C. Dennett, Intuition Pumps and Other Tools for Thinking, 2013(ラパポートのルールとして紹介)

E. ネット時代の出典確認

ラテラル・リーディング

一つのページの中だけで真偽を判断せず、別タブを開いて「この発信元は何者か」を横方向に調べてから読む方法。プロのファクトチェッカーが使う技術です。

出典:S. Wineburg, S. McGrew ほか/Stanford History Education Group, 2019

SIFT(4つの動き)

Stop(立ち止まる)/Investigate the source(発信元を調べる)/Find better coverage(より良い情報源を探す)/Trace claims(主張のおおもとをたどる)の4手順。出典・一次情報を問うの実践版です。

出典:Mike Caulfield, “SIFT (The Four Moves),” 2019

CRAAPテスト

情報源を Currency(新しさ)・Relevance(関連性)・Authority(権威)・Accuracy(正確さ)・Purpose(目的)の5観点で点検するチェックリスト。

出典:Sarah Blakeslee, Meriam Library, California State University, Chico, 2004

手に取りやすい入門書(日本語)

上の出典は原典・古典が多めなので、比較的新しく、書店・電子書籍で手に取りやすい日本語の本もまとめておきます(Amazon.co.jp で実在と入手しやすさを確認したもの)。まず1冊、気軽に読み始めるならこのあたりから。

  • 丹治信春『実践! クリティカル・シンキング』ちくま新書, 2023 — 推論の正しさ・どこが誤りかの見抜き方を、新書で実践的に。Kindle版あり。
  • 菊池聡 編著『より良い思考の技法:クリティカル・シンキングへの招待』放送大学教育振興会, 2023 — 社会統計データやネット情報の評価、認知バイアスの克服まで体系的に。
  • 植原亮『思考力改善ドリル:批判的思考から科学的思考へ』勁草書房, 2020 — 手を動かす演習形式で、批判的思考から科学的思考へ。最初の1冊に。
  • 戸田山和久『「科学的思考」のレッスン:学校で教えてくれないサイエンス』NHK出版新書, 2011 — 「確からしさ」をどう見積もるか、科学のものの見方を平易に。
  • ハンス・ロスリングほか『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』日経BP, 2019 — データに基づいて、思い込み(10の本能)を乗り越える習慣。数字トリックや過度な一般化の実例として。
  • 野矢茂樹『論理トレーニング101題』産業図書, 2001 — 議論を読み書きする力を問題演習で鍛える、長く読まれている定番。

(いずれも入門〜一般向け。価格や在庫・Kindle版の有無は変わるので、購入前に最新の商品ページでご確認ください。さらに踏み込みたくなったら、各手法の出典(原典)へ進んでください。)

使い方

ここにある手法は、どれも質問力型図鑑で扱った見方と地続きです。全部を覚える必要はありません。気になったものを一つ、出典に当たって深掘りし、クリシンクエストで実際に使ってみる——それが、問い直す力をいちばん速く自分のものにする道です。